あなたのそばで 後

 

 『待った!待った待った待った!Wait小十郎!!』





 
 折に触れ、口吻けを交わす仲。
 甘い甘い、蕩けるような口吻けを、もう何度。


 俺もガキじゃねぇ。
 しかも、相手は、愛しくて堪らない政宗様だ。
 
 気持ちが、いつか解れるように。
 ふわりと、解けてゆくように。


 愛しくて、愛しくて、それだけで。



 ―――俺の主は、ひどく初心なひとだった。



 それも仕方がない、蝶よ華よ私の薔薇よと、伊達家から、過保護すぎるほど過保護に育てられてきたのだ。
 特に、輝宗様の溺愛っぷりは、目も当てられない。



 その華を、俺が、手折る。


 気紛れでもなく、ましてや、【欲】だけの為なんかではなく。



 貴方を、この小十郎に、頂きたい―――



 あの真摯な想いは、政宗様にとって衝撃だったろう。
 俺がどれほど政宗様を大切にしてきたか、一番ご存知なのは、政宗様ご本人だ。
 その、俺が。

 貴方を、頂きたい。

 その言葉は、政宗様にとって、衝撃でなかったはずがない。


 けれど、おずおずと、応えようと努力してきて下さった。


 初めは、唇に触れるだけで、身体を硬くされていた。
 緊張していた、というのは、嘘ではないだろう。
 またその様が、堪らなく愛おしい。

 
 また、いつか。


 俺がその先を望むのは、【いつか】だと、政宗様は想像されたのだろう。
 それが、一体いつなのか、おそらくは、俺の顔色を伺いながら。


 そんな様も可愛らしかったが、想いが通じた今、俺は、図々しくなった。
 
 
 貴方が俺のものだと、信じたい。
 貴方を抱けるのだと、信じたい。
 貴方の隣に在っても良いのだと。


 我ながら、鋼鉄の自制心でもって、政宗様に口吻け以外の何もせず、3ヶ月以上が経った。



 部活もない。
 酒を飲ませる予定もない。
 そして、土曜日。


 完璧なセッティングをして、俺は、政宗様をお誘いした。


『政宗様。今日と明日の時間を、この小十郎に頂けませんか…?』


 そう言った俺に、政宗様は一瞬何かを考えているような顔をして、それから、俯いた。
 ご機嫌を損ねたのかと一瞬狼狽したが、どうやらそうではなく。
 
 髪の隙間から見える耳まで、赤かった。
 言った意味が、正確に伝わったらしい。


『I know。…何か、オレがすること、あるか…?』


 小さな小さな声でそう言われて、また愛しくて、抱き締めたかった。
 が、場所は伊達家の玄関先。
 そんな真似をしようものなら、俺は明日からホームレス確実だろう。


『政宗様は、ただ、俺と一緒においで下さればいいのです。…お嫌でしょうか?』
『……No。オレは、オレを小十郎にやるって、決めたんだから』

 悲壮な決意、とでも言うのだろうか。
 人間は、初めてのことに向かった時、こんなに難しい顔をするものだろうか。
 
『政宗様、お嫌なら…』
『No!嫌じゃねぇよ!変な勘違いすんな!…親父達に、今日小十郎んトコに泊まってくるって言ってくれば良いんだろ?』

 ムキになられている様子も、またお可愛らしい。
 俺は、頬が緩むのを止められない。

『…小十郎。デレてんぞ』
『…これは失礼を。では、小十郎は、車でお待ちしておりますので』
『うん、ちょっと親父達に言ってくる』

 そう言って、駆け出された。
 


 それから、俺が予約していたホテルに着く。
 大富豪、と言っても差し支えないほどのお家に育たれている政宗様だが、呆気に取られていたようだ。
 行き先を告げていなかったので、驚かれたのだろう。
 おそらくだが、俺のマンションだと思っておられたに違いない。

 初めて政宗様に触れる場所が、俺の狭いマンション、というのは、俺としては有り得なかった。
 政宗様の『初めて』に相応しい場所を、俺は結構丹念に調べたのだ。
 何一つ、『嫌な記憶』を、政宗様に与えない為に。

 エグゼクティブフロアに案内されても、政宗様はまだ、呆気に取られていた。
 俺が、ここまでやると、思っておられなかったのかもしれない。


 カードキーを、エレベーターに差し込む。
 そして、ポーターが部屋番号を打ち込んでいくのを、政宗様は、とても珍しいものを見るように、食い入っていた。

 フロアに入るのにも、カードキーが必要だ。
 
 カードを通して、がらんと広い通路を、ポーターが先に行く。

『こちらでございます。お部屋のご案内を致しましょうか?』
『いや、良い。大体解るから』

 そう言うと、ポーターは、そうですか、と荷物をラックから降ろし、一礼する。

『ごゆっくりおくつろぎくださいませ』

 その一言を残して、ポーターが部屋を出る。
 その途端。

『小十郎…なんで、こんなホテル?』
『おや、お気に召しませんでしたか?』
『いや…小十郎の部屋とか、もっと安そうなホテルとかだって…』
『小十郎の財布の心配までして下さるとは、嬉しい限りです。でも、伊達の給料は、そんなに安くはないので、大丈夫です。…それに』


 笑みが止まらないまま、政宗様を、横抱きにして、抱き上げる。
 いわゆる、お姫様抱っこ、というやつだ。

『貴方を頂ける、その幸福に目が眩んで…それに相応しい場所を、探しただけです』

 そう言って、口吻ける。
 唇を、甘く噛むように。
 少しだけ慣れてきた舌を、絡め取るように。


『貴方がここに居る…貴方が、貴方の意思で、こうして俺の腕の中に居る…この幸福に、勝るものはありません、政宗様』


 もう、何一つ、憂いはない。
 抱き締めて、離さない。
 もう、何処にも行かせない。
 
 貴方を抱き締めたい。
 貴方を、体中隅々、愛して差し上げたい。

 横抱きのまま、スプリングの利いたベッドに、政宗様を横たえる。
 
 ああ、この夢を、どれほど見たろう。

 こんな、都合のいい夢を、どのくらい、見たろう。


 けれど、現実には、そこに政宗様が居る。
 茹蛸のようになって、何かもう、一杯一杯、と言った風情で。

『…政宗様。お許しください。…お慕い、しているのです…』

 この肌を開こうとするのは、まるで禁忌。
 しなやかな獣を飼いならそうとするような。
 勿論、俺に飼いならされる政宗様じゃねぇが。

 しっかりと止められた第一ボタンを外す。
 目に眩しいほどの白い肌が、鎖骨が、俺の目を焼くようだ。
 
『…政宗様…』

 口吻けて、そして。

 鎖骨に口吻けようと、そうした瞬間。



『待った!待った待った待った!Wait小十郎!!』



 耐え切れない、と言った風に、政宗様が、俺の身体をぐい、と押し退けた。


 耐え切れないか。
 やはり、男に組み敷かれるのは、屈辱か。

 逡巡していると、政宗様は、何かに気付いたような顔をされて、それから。


『シャワー!!シャワー、浴びてくる!!折角こんな広い部屋なんだから、ちょっと冒険してくる!!』


 がばっ、と身体を起こされて、一目散にシャワールームに。
 大体、一応は広いツインの部屋だが、『冒険』するほど広くはない。

 恥ずかしさの極限だったのだろうか。
 それとも、同性の身体への、嫌悪だったのだろうか。

 そして引き戻された冒頭の言葉で、俺は、色々と考え直さねばならないかな、と思い始めた。










「お待たせ、小十郎……怒ってんのか?」

 いつもよりも随分長い風呂に浸かり、政宗様が出て来られたのは、30分はかかっただろうか。
 勿論、『怒って』など居ない。
 『初めて』だと仰る政宗様のお気持ちがほぐれるまで、待てばいいだけの話だ。

「怒ってなどいませんよ。どうされました、貴方らしくもない」
 
 いつも、堂々としていて欲しい。
 この世に憂いは何も無いのだと、堂々としていて欲しい。

 …この場合は、俺が『未知への恐れ』へ引き込もうとしているのだから、言えた義理ではないが。

「政宗様。貴方を恐れさせるのは、本意ではない。このまま、取って返しても―――」
「シャラップ。オレは、お前に、オレをやると決めたんだ。オレしかねぇ、ただの、このオレを。決心を覆すようなこと、言うな」

 俺の唇に、政宗様の指が当てられる。
 これ以上何も言うな、という、プレッシャー。

 もう言うな。何も言うな。


 政宗様の目からそんな言葉が零れ落ちている。


「…怖いことは、何も致しませんよ」
「嘘だ、嘘、嘘、だってもうオレ、一杯一杯でっ…!」

 口吻ける。
 甘くて甘くて、蕩けそうな唇に。

 そして今度こそ、その細い、鎖骨に。

「ひゃっ…!」
「…失礼、驚かせましたか?」
「大丈夫大丈夫。だからオレ、緊張してて…」
「……本当に、貴方は……愛おしい……」

 なんてお可愛らしいのだ。
 なんて、愛しいのだ。

「政宗様…少し、力を抜いて頂いても…?」
「T see、力って…力って、どこの…?」

 その、体中に入っている力を、抜いて頂きたいのだが。
 一杯一杯の政宗様には、苦しい相談だったかもしれない。

「……そのままで宜しいですよ。出来るだけ、大きな息を吐いて…」
「無…無理無理っ、息なんて…うむっ…」

 その唇に、また口吻ける。
 身体が蕩けるほどの、キスを。
 繰り返し繰り返し貪っていたら、少しずつ、力が抜けて行くのが解る。
 握り締めていた掌を、そっと、俺のそれと合わせる。
 体温が伝わって、優しい。
 政宗様の、体温。
 何よりも愛しいひとの、体温。

「ん…小十郎……」

 少しだけ覚えた口吻けを、ゆっくりと返してくる。
 ゆるゆると開かれる肢体。
 バスローブから開いた胸元に、指を這わせ、白い胸を摩る。
 
「ん…っ…」

 初めての感触だからだろうか。
 ふるり、と小さく身体が震える。

 最初は、その胸の小さな突起を、指で軽く弄る。
 しつこくないように、徐々にでも快感を引き出すように。


 俺だって、男を抱いたことは無い。
 政宗様以外の男など、言語道断だ。
 今ではもう、女も欲しくない。

 欲しいのは、ただ、この目の前で、小さく震える身体だけ。

 ゆっくり、ゆっくりと、掌を脇腹に、腰骨に、下ろしていく。
 口吻けは、やめないままで。

「んっ…こじゅうろっ…なんか…なんか…」

 キスは、官能を手っ取り早く引き出すためのものでもある。
 はあ、と荒い息をつきながら、政宗様は小さく、身動ぎを繰り返す。

「ん…あっ…!」

 政宗様の下腹部に、触れる。
 少し熱を持ち始めていたそこを、やわり、やわりと刺激してみた。

「ん…っ…ん、小十郎…は、恥ずかし…っ」
「…何も、恥ずかしいことはありませんよ、政宗様」
「でもっ…!」
「大丈夫ですから。…ゆったりとなさってください」
「ん…で、出来ねぇっ…!」

 急な刺激に、苦しくなったかのように、政宗様は猫のように身体を丸くされようとしている。
 堅く瞑られた瞳からは、生理的なものなのか、うっすらと、涙が。

「…お苦しくはありませんか…?」

 頬に口吻けながら、問う。

 苦しくないように。
 怖くないように。
 
 そればかりを願っているんだが。

「苦しくなんか…っ…は、恥ずかしい、だけだよっ…!何で小十郎、そんなに冷静なんだよっ…!」
「冷静、な訳がございますまい。貴方に触れられて、おかしくなりそうなのに」

 身体の熱さ。
 紅を刷いたような、桜色に染まる身体。
 初々しく、俺に応えてやろうと、してくださっているのが判る。

 判るからこそ、なお、一層大切で。

「このお美しい身体を撫でる…これ以上の恍惚は、ありますまい…」

 肩口に、口吻けながら、バスローブを完全に取り払う。
 そこには、数ヶ月前に偶然に見てしまった、美しい肢体が、しどけなく横たわっていた。

「政宗様、どうぞ、そのまま…」

 そう言って、政宗様の、熱を持った中心に触れ、そして、舌を這わせる。

「うわっ…!うわ、そんな事…そんな事しなくて良いって……!」

 狼狽した声が返ってきて、また、愛しい。
 政宗様の基準と俺の基準は、どうも少し、違う気がする。

「政宗様が、気持ち悪いと思われるなら、やめます」

 キッパリと言い切った。
 これは、勿論本心だ。
 俺のような強面に奉仕されても、お嫌なのかも知れねぇしな。

 でも、返された言葉は、望外に、可愛らしいお言葉で。

「嫌なんかじゃ…ねぇよ。小十郎のすることで、嫌なことなんか…っ!はあっ、…無いっ…けど…!」

 舌を這わせ、飴玉をしゃぶるように、政宗様のそこを、丹念に愛撫する。
 少しずつ増していく質量が、嬉しい。
 
「けど?なんですか?政宗様」
「気持ち、良すぎだろ、これはっ…!」
「気持ち良いなら。…もっと、続けても?」
「Wait!その前に、服脱げよ、小十郎…!何でお前だけ着てんだよ!」
「ああ…これは、失礼致しました。貴方がお美しくて、手を伸ばすことしか、考えておりませんでした…」

 政宗様の指摘に、俺は尤もだと思い、ジャケットからシャツから、全てを取り払う。
 一枚の、下着を除いて。

「Oh…やっぱ、いいカラダしてんだな、小十郎…」
「お褒めに与り光栄です。政宗様のように、美しくはありません、無骨な男の身体ですが」
「俺が美しいってのも納得いかねぇ…ひゃっ?」

 意識を一瞬戻されていた政宗様に、俺は更なる愛撫を与えた。
 弛むことなく、政宗様の熱を舌で転がしながら、その奥の、双丘。
 さわり、と撫でると、政宗様は驚いたのだろう、身体をびくんと竦ませた。

「大丈夫です、政宗様…それよりこちらは、大丈夫ですか?」

 張り詰めている政宗様の熱を、一度出させてあげた方が良いのかも知れない。
 そんな風に思うほど、政宗様は、ギリギリだ。

 快楽にか、身の内から湧き出る熱にか、しっとりと汗を滲ませている。
 そんな様も、魅惑的だ。

「No…オレだけ気持ちよくちゃ、フェアじゃねぇだろ…?」

 そんな、可愛らしいことを言ってくださる。
 
「いいえ。…貴方が気持ちよくなっていらっしゃることは、小十郎にとっても喜びです。大丈夫ですよ」

 愛しい。
 こんな、ご自身の事だけを考えそうなシチュエーションで、俺の心配とは。

 それまでは無作為に触れていた双丘に、ゆっくり、指を触れさせ、ノックするように軽く、突く。

「んっ…!こじゅうろ…小十郎…オレが、欲しいか…?」

 ビクリ、と身体を跳ねさせての、言葉。
 しっとりと濡れた、悩ましい肢体。
 その全てが、オレを、昂ぶらせる。

「……そうですね。貴方の全てを頂きたい。…けれど、貴方の恐れることなら」
「何にも、怖くねぇ」

 目許を潤ませながら、政宗様は応えてくださった。

「小十郎の、したいようにしてみろよ。…悪ィけど、オレは、どうして良いか判んねぇから」

 
 愛している愛している愛している。
 言葉が何の意味も持たぬほどに、愛している。

 その方からこんな風に言って頂けて、なお腰の引ける男が居たら、見てみたい。


「では…少し、気持ち悪いかもしれませんが…」

 この時のために用意していたローション。
 たっぷり手に取って、少し、掌の上で温める。
 いきなり肌につけたら、冷たいかもしれないから。

「All Light。大丈夫だ…」

 そう言いながらの不満げなお顔も、可愛らしい。
 
「では…少し、力を…」

 口吻けを交わしながら。
 双丘の奥へ、どろりとした液体を垂らす。
 
「ッつ…!」

 冷たい、だったろうか。
 それとも単に、嫌悪の言葉か。

「貴方に傷をつけぬためです。…暫く、ご辛抱ください」

 そう言って、もう一度キスする間に、奥へと、指を一本入れてみる。
 ローションの助けを借りても、やはり、狭い。
 
「んっ…なんか…」
「…気持ち悪いですか?痛いですか?」
「痛くは、ねえ…けど…なんだ、この…」

 慣れない異物感に戸惑っておられる。
 ゆっくり、ゆっくりと指を抜き差しするうちに、ローションのおかげだろう、段々スムーズに入るようになった。

「政宗様、お苦しいですか…?」
「いや…なんかっ…変な感じがする、だけ…」

 ぬっ、ぬっ、と、指の抜き差しを早める。
 狭い入り口が、少しずつ綻び始める。

 それを見て取って、俺は、二本目の指を挿入した。

「んっ…!」

 ビクリ、と陸に打ち上げられた魚のように、政宗様の身体が跳ねる。
 二本目は早すぎたか、と思ったが、びくびくと、軽い痙攣のようなものが治まらない。

「なんかっ…そこ…そこ…なんか変だっ…!」

 絞り出すような声に、ああ、と気付く。
 図らずも、政宗様のイイトコロに、指が当たってしまったということだ。

「ここ、ですか?」

 くりゅ、と卑猥な音を立てて、その場所を抉る。
 
「あっ―――あ、あっ…!」

 びくん、びくん、と、身体の反応が大きくなる。
 染まっているのは、目許だけでなく、身体全体。
 この熱をどうしたら良いのか解らない、と言いたげに、政宗様は、身体をくねらせた。


「政宗様…」

 その様子が堪らなくて、俺は、最後の下着を脱ぎ捨てる、
 手を添える必要も無いほどに、屹立していた。

「貴方を…頂いても宜しいか…?」

 耳元に、出来得る限り甘く囁く。
 奥への指の悪戯は、やめないままで。

「…貴方が、欲しいのです、政宗様…愛して、おります」

 だから。
 この身体を開くことを、どうか、許して欲しい。

 そのまま耳に口吻けると、政宗様は一瞬、肩を竦められたが。

「オレは、オレを小十郎にやるって…うんっ…き、決めてる…からっ…!」

 それは、王者の許し。
 ただ一人の貴方が、俺だけにくれる、王者の許し。

 ああ、貴方は、どこまでも愛おしく、慕わしく。

「―――失礼…」
「う…あっ…あああっ…!」

 ぐ、と、政宗様の奥に、俺自身を埋め込む。
 勿論、いきなり全部入る訳がないから、ゆっくりと、慎重に、この方を傷つける事だけはしないように。

「あ…あっ…あああっ…こ、小十郎…!苦、しっ…!」

 思考能力さえ蕩けそうな、政宗様の内部。
 熱くて、狭くて、堪らなく愛しい身体。

 
「今暫く…暫く、我慢くださいませ…!」

 こうなったら、途中で止められたら俺は病気だ。
 飲み込まれる、と錯覚するほど熱く蠕動する、政宗様の内部。
 

「ああっ…ああ…っ…!小十、郎…!」

 目を見開いて、他に掴むものはない、とでも言いたげに、背中にきつく、腕が回る。
 力が入りすぎて、爪を立てられても、最早痛みなど感じない。
 あるのは、陶酔感と、恍惚だけだ。


「政宗様っ…お慕い、しております…!」

 何とか全部納めきって、政宗様を抱き締める。
 この方と一つになれた、この喜び。
 他の何と比べれば、これ以上の幸せがあるだろう。

 俺の幸せは、政宗様。
 貴方に始まり、貴方に終わるのだ。


「小十郎…小十郎…っ…」

 隻眼から、涙が零れている。
 やはり、お苦しいのだろうか。
 身体がお辛いのだろうか。

「小十郎……お前だからこそ…お前以外に、オレをこんな気分にさせる奴は、居ない…」


 身体は繋がったままで。
 ぽろぽろと、涙が零れている。
 無垢で、綺麗な涙。
 お止めしたいと、あんなに望んだのに。


「なんだろう…こうなることが、決まってた…気がする…小十郎」


 ふ、と。
 まるで、遠い昔を思い出してくださったような、そんな笑顔で。
 涙を零しながらも、笑顔で。


 ―――そんな様を見て、大人しくなれたら、俺は仙人にでもなれるだろう。


「政宗様っ…!何と、お愛しいことを…!」
「えっ…こじゅうろ…」

 
 全て納まった自身を、奥まで届けるように、きつく抱き締めて、それから。
 

「あっ…あう…あああっ…!こ、小十郎っ…!」
「政宗様…!」

 指で覚えた、政宗様の『イイトコロ』を、重点的に突きながら、そして。
 空いた片手で、政宗様の熱を、きつく扱く。

「あ…ダメだって…あああ―――っ!こじゅうろ、小十郎っ…!キツイ…!」
「お許し、下さい…政宗様…!」
「あああっ!!あ、だめだ、もう、もう出ちまうっ…!」
「政宗様、政宗様…!」

 がくがくと俺にゆすぶられながら、政宗様は、きつく背中に爪を立ててくる。
 そうしないと、耐えられない、というように。

「そこっ…そこばっか…やめっ…!」
「…ここがよろしいんですね?政宗様…いくらでも、いくらでも、貴方の気持ちの良い事を…!」
「き、気持ちよすぎでっ…ダメだ、出ちまうっ…ダメだ、あああっ!」

 一際大きな嬌声を上げて、政宗様の背は、弓なりに反り返って、果ててしまった。
 そんな姿さえも、目を奪われる美しさで。


「ん…あ…小十郎…まだ…まだ、いい…からっ…!」

 トロン、とした目で、俺の腰を掴む。
 果てた政宗様の白い腹は、ご自身のもので汚れている。 
 それにも構わず、まだ達してない俺に、そう言って続きを、と仰る。

「まだ…小十郎…イケてねぇだろ…?だから…いい、から…」

 力の入らぬ手で、俺の腰を掴んだまま、離そうとはしないようだ。
 俺としては、政宗様の艶姿を見られただけで、もう何もかも、満足だったんだが。

「小十郎も…ちゃんと、俺で気持ち良くなって、イケよ…?」

 俺の掌に、ちゅ、と音を立てて口吻けられる。

 ―――やられた。

 どうしてこの方は、こんなに可愛らしいんだ。

「では、まだまだ…政宗様にも、気持ち良くなって頂きたいですからね…」

 繋がったまま抱き締めて、頬と、首筋にキスをする。
 愛おしい。
 言葉も。
 姿も。
 頼りなげな、こんな場面でさえ。
 
 それは、俺の獣欲を煽るには、充分すぎて。

 


 そうして、政宗様を何度も果てさせ、ぐったりとして眠られるまで、俺達の初めての交合は、明け方近くまで、続いた。








「何か、変な筋肉痛……」

 翌朝、政宗様のぼやきが微笑ましかった。
 
「内股ばっか、筋肉痛…こんなオプションがついてくるなんて聞いてねぇ…」
「…訊いた、とは、誰にですか」
「いや、誰にも訊いてねぇけど。何かこう、ムードたっぷりに目が覚めて、ってのが…」

 夢だったのに、現実は、筋肉痛。
 そのギャップが納得がいかないのだろう。
 
「小十郎は、ムードたっぷりに目を覚ましましたが?…貴方が隣で、眠っているのですから」
「Shit!何で俺のが遅く起きちまったんだろうなぁ…やりたかったことあったのに…」

 心底悔しそうな政宗様が不思議で、つい訊いてしまう。

「やりたかったこと?今からじゃ、間に合いませんか?」

 言ってみたら、政宗様は、見事に膨れっ面だ。

「出来ねぇよ!Shit、体中が痛ぇわ、小十郎より遅く起きるわで…」
「……今からでも間に合うものがあれば、小十郎は善処致しますよ?」

 この方の『ドリーム』なら、叶う限り、全て叶えたい。
 我ながら、ベタ惚れだ。
 愛しくて堪らない。

「じゃあ…【夜明けのコーヒー】だ!!」
「……は?」

 いきなり何を言い出しておられるのかと、さすがに耳を疑った。

「初めての朝には夜明けのコーヒー!何かの歌にあったろ?そういうの」
「はあ…コーヒーなら、お入れ致しましょうか?」
「No!こんなホテルに置いてあるインスタントなんかじゃなくて、ちゃんとしたコーヒーだ!それをオレが入れて、【モーニン、ハニー】って小十郎を起こすはずだったんだ!」
「筈、と仰られても…では、インスタントでないコーヒーを、飲みに行きますか?」
「どっかに行くほど、体力がねぇ…」

 しょぼん、とした政宗様が、つい可笑しくて笑みを誘う。
 初めてだった上に、ああ何度もしつこく攻められては―――その点の責任は全て俺にあるのだが―――政宗様が想像されたような、【外】に行くのは、確かに難しかろう。
 しかし。

「小十郎は、この二日間、貴方と過ごす為だけにこのホテルを取りました。…エグゼクティブルームというのがあって、一般の宿泊客やましてや宿泊客でさえない人間は入れない、飲食には一切困らない個室がございますよ。そこでは、紅茶もコーヒーも、ちゃんとしたものが出てきます。軽食くらいなら用意されていますし。そちらに行かれますか?」

 そう言ったら、政宗様は、とても嬉しそうに、顔を輝かせた。
 その顔を見れるなら、俺はやっぱり何でもできるな、と再確認だ。

「楽しそうだ、シャワー浴びて、行こう小十郎!…しかしお前、Perfectすぎる準備だったんだな…」

 嬉しさ半分、呆れ半分の顔で見られても、俺の頬は緩みっぱなしだ。
 何せ、こんなに可愛い政宗様を見れたのだから。


「勿論。貴方の為なら、何も惜しみませんよ」



 愛しい、愛しい、ひと。


 この腕に抱いて、閉じ込めて。


 できることなら、ずっと、ずっと、今生でも、お傍に。


 

 誰よりも。


 昔そうであったように、誰よりも、お傍に。



 可愛いひと。

 美しいひと。

 愛しい、ひと。




 ―――叶う、ならば。





























2014.06.09 このシリーズ馴れ初め編後半でした。

 

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